藤井聡太竜王が渡辺明名人に挑戦する第81期名人戦七番勝負第5局が、5月31日～6月1日にかけて、長野県上高井郡高山村「緑霞山宿 藤井荘」にて行われました。この歴史的な一戦は、対局2日目の午後に渡辺が再び考えこみ、86分の大長考に続きまた長考とは変調のあかしだとされました。藤井が席を立つと、渡辺の頭が下がってうなだれた。対局態度と時間の使い方が、逆転したことを告げているとされます。
渡辺は47分の長考で成桂で桂を取り、藤井玉を下段に落とします。しかし、危険に見える藤井玉も、いざ寄せるとなると手段が見当たらない。控室では戸辺誠七段と高見泰地七段という、攻めに長けた2人が一所懸命知恵を絞っているが攻めきれない。この手はどうか? いやこの角が利いている。じゃあこの手は? いやこっちの角が利いている。検討ではこんな会話の繰り返しです。
高見は「王手の前に角を取るほうがよかったと思いますが、それはそれで相手にも粘る余地を与え長くなる。渡辺名人はここで決めるべきと踏み込んだのでしょう。ただ、スパートをかけるのが早かったですか」と渡辺の心情を慮りました。攻めをつなぐ名手の攻めが切れた。渡辺は互いに飛車を取り合う手を選んで形作りに入り、藤井に手番が回ります。
飛車の王手に金を合い駒して、さあ藤井は着地をどう決めるのか。端に桂を捨てるのがプロの第一感です。守りの銀を動かし、さらに桂で王手して金をはがす。そのとき先手は飛車で王手角取りして角を抜くが、ここで詰まして終わりか……あれ? 持ち駒がたくさんあるのに詰まない。立会の3人に記録の齋藤光寿三段も加わり、頭を突き合わせて読むが、皆詰みが見えない。
実は控室だけではなく、ABEMA中継で解説していた広瀬章人八段も、関西将棋会館での大盤解説会の斎藤慎太郎八段も、同じ検討をしていました。じゃあ、どうやって決めるのかなあ……。モニターを見ると、そこでは藤井が頭を抱えていました。しかし、力なくうなだれているのではない。目前のゴールに向かって力を振り絞っているように見えました。
