2019年7月18日、京都アニメーション第一スタジオが放火され、36人が死亡、32人が重軽傷を負いました。この事件で殺人などの罪で起訴された青葉真司被告（45）は、全身の93パーセントにやけどを負い、予測死亡率は97.45パーセントでした。しかし、彼を救ったのは、やけど治療のスペシャリストである上田敬博教授（51）でした。
上田教授は、青葉被告を治療した約4カ月の日々を手記にまとめています。そこには、青葉被告の回復の過程や、治療にあたった医師としての思いが綴られています。
上田教授は、事件が起きた日に、被害に遭われた負傷者を自分の勤務する近畿大学病院に送ってほしいと各医療機関に電話しましたが、1件も転院依頼はありませんでした。しかし、「もう1人、診てほしい人がいる」と言われて、青葉被告の治療を引き受けました。
上田教授は、「犠牲になられた方とご家族、被害に遭われた方とそのご家族のためには、『死に逃げ』させてはいけない」という思いで、青葉被告を必死に治療しました。青葉被告は、4カ月後に拘置所に移送されるまでに、自分で食事や排泄ができるようになりました。
上田教授は、拘置所で6回診察しましたが、青葉被告は「ここまでできるようになった」と自慢げに見せることもありました。しかし、「命の尊さ」や「罪の意識」を認識させることはできませんでした。
上田教授は、「被害に遭われた方へのせめての償いになれば」という思いで手記を公開しました。彼は、「医師としてやれることはやった」と言いますが、「事件そのものを防ぐことができなかったこと」や「容疑者だけを助けてしまったこと」に対する苦悩も感じています。
この手記は、事件から2年以上経った今でも、多くの人々の心に深い傷を残している京アニ放火殺人事件を改めて考えるきっかけとなるかもしれません。
